日本におけるフライフィッシングの発祥地として歴史が古い中禅寺湖。
国定公園という特殊な観光地でありながらその豊かな自然に恵まれた釣り場環境そのものに魅かれるフライフィッシャーも多い事でしょう。ホンマス、ヒメマス、ニジマス、ブラウントラウト、レイクトラウトなど豊富なフライフィッシングの対象魚もさる事ながら、そこに生息する魚体の素晴らしさも多くの釣り人を引きつける魅力となっています。その一方でたった一匹の魚を釣る事の難しさを、いとも簡単に痛感できるフィールドとして捉える方も多く、敢えてその攻略の難しさを楽しむという、ある意味での修行の場としても有名です。そんな難しい中禅寺湖に数十年も通い続けるアングラー「山口直哉氏(Captured)」に、解禁当初~6月辺りまでのシーズン攻略の糸口を伺ってみました。
─中禅寺湖には相当通っていると伺っていますが?
兎に角、中禅寺湖って釣れる魚体が綺麗ですよね。これは僕にとって物凄く大事な事です。個人的にはミズナラなどの原生林の豊富さや虫の種類の多さ、ターゲットとなる魚種の多さも魅力のひとつですね。国内で唯一生息するレイクトラウトが釣れる湖というのも好きな理由ですよ。相当通い込んでいた頃は1シーズン70日超えを記録していた事もあるんですが、恐らく当時の日本記録ではないかな?と(笑)。月~金曜日まで釣りをして土日だけフライを巻きに一旦帰宅するみたいな。まさに駐車場乞食でした。その後、僕の友人が80日超えというのをやったので日本記録は彼に譲りましたけど。(爆笑)最近は釣りを始めるのが10~11時位。朝マズメと夕マズメどちらが好き?と聞かれたら僕はどちらかと言うと夕マズメ派。朝が弱いという理由が1番ですが、朝ってマズメは良いんですがその後に風が吹くまで釣り辛い時間があって効率が悪いんですよね。ただ、そんな時間から始まる釣りだから、有名ポイントは基本的にまず埋まっている訳で、如何に空いているポイントで釣るか?という部分も楽しんでいます。
─これから中禅寺湖に行かれる方へのアドバイス的なものがあれば?
最盛期の中禅寺湖では入りたい(釣りたい)ポイントには、まず入る事が出来ないという事を覚えていて欲しいですね。そうなると必然的に人が居ない場所での釣りを強いられる事になる。よく前日に良い釣りをしたというポイントには必ずと言っていい程釣り人が押し寄せますよね。僕はそういう場所にはあまり入りません。
大体ホンマスは5月位から釣れ始めるのですが、最初はある程度釣れるエリアが限られます。そこから徐々に釣れる場所が拡散し、その後は湖全域で釣れるようになるんですね。ですから、魚の移動先をある程度先読みするというか、事前に想定する事でその日のポイントを組み立てて行きます。当然、この時期のベイトはユスリカになります。その場合、使用するフライはマラブー系のアトラクターパターンがメインとなり、リトリーブは比較的速めが有効です。
アトラクターに反応が良くない場合は14から12番のソフトハックルも使います。僕は結構リトリーブのリズムを大事にします。特にブラウンを狙う場合は「トントン・スー」とか「トン・スー」とか。釣れない時間が長いと沈黙してしまい、結果モチベーションが保てないんですね。色々なリズムを組み合わせる事で集中力が高まるんです。
レイクトラウトに関しては魚が溜まり易い「巣」と呼ばれるようなポイントがあり、ある程度釣り場に通い、そのような穴場を見つけておくのも方法のひとつなんです。良い場所を見つけたら10匹以上釣れる事も珍しくないですよ。
ブラウンに関してはズバリかけあがりを意識します。タイプ2位のシンクレートで30秒程のカウントダウンで底に着く位の深さを上手く攻略して欲しいですね。定着性の強い魚ですから、一度釣れた場所で再度釣れる事もあるし、同サイズの違う魚が付く可能性もあるので釣れた場所はきちんと把握しておくと良いですね。
─エキスパートの方が陥りやすいミスなどに対して何か助言があれば?
助言というよりも、僕自身のスタイルなんですが、例えば「岬」などのポイントで釣る時に、その先端部(突端部)に入りたがる方が結構いらっしゃいます。先端から更に沖に向かって投げてしまうと実際は深過ぎるんですね。どうしても狙わなくても良い場所を引いてくる時間が長くなる。レイク狙いならそれは効果的な場合もありますが、実際問題として効率が悪くなる。確かにブラウンも底付近を狙う事が多いのですが、それでも2~4m位の水深じゃないでしょうか?ブラウンは結構浅い所に居るものなんです。ですから僕はそういうポイントに入る時は突端部ではなく必ず手前側(つけ根)から岬の側面部分を狙うようにしています。この時にも沖側に直角に投げるのではなく45度くらいの角度を付けてね。その方が効率よくおいしいかけ上がりポイントを長い時間探る事が出来るんですよ。その方が効率的ですよね。
更に、風が当たっているのか?風裏なのか?はたまた湖流はどのように流れているか?そういう見極めもとても大事ですね。当然、日によっても違うし、一日の中でも変わってくる。この微妙な変化に気付きながらポイント選定をするんです。湖流に関しては潮目の出来る位置なども物凄く重要視してます。湖面の浮遊物が必然的に溜まる場所ですから、モンカゲとかユスリカの時だけでなくワカサギの釣りでも重要な部分です。湖流に関しては、特にリトリーブ時のテンションを感じているかどうか?も大事なんです。表層の流れと中層の流れが違うケースもありますから、そこは実際に投げてみてからいろいろと判断します。
ちょっと先のシーズンになりますが、セミでブラウンを狙う場合、本当に釣る人ってほとんどウェーディングしないですよ。レインボーは結構沖合でも出ますが、ブラウンは岸から1m位の所でも平気で「ガバッ」と出ますからね。岸際を静かに丁寧に釣る事がとても大事ですね。
─新製品のライン「中禅寺SP」について伺います。
ウェーディング時にトラブルフリーでキャスト出来るという事、これはフォルスキャスト時のループの高さを極力下げないという事なんですね。これって簡単なようで案外難しい部分なんですよ。それに少しでも長くリトリーブする事に拘り、全長が9m台という部分は特に重要視しました。実はシューティングヘッドそのものは長い方が物理的に飛距離は出しやすいんですが、ディープウェディング時のラインコントロールも相当難しくなる。だからなるべくトラブルの少ないラインを作りたかった・・・。だから、釣りやすさと投げやすさというバランスに配慮しました。更に、現在市販されている9mのシューティングヘッドではライン長をコントロールする為のリヤテーパーが短い為、カットする事に関して限界があります。かと言ってウェイトフォワードラインを9mでカットすると全くリヤテーパーが無い状態になってしまいますよね? それではキャスト時に後ろ側が暴れてしまうんです。ですからカットする幅に余裕を持たせる為、リヤテーパーを従来品よりも長く設定してもらいました。更にプレゼンテーションにも細心の注意を払いたい事から、フロントテーパーも長く設定しました。実はここも短いとフライがオーバーターンする原因となり、水面を叩きやすくなります。また、リトリーブ時の繋ぎ目が当たる不快感を嫌い、スプライス接続に拘る方もまだまだ居ますからコアにはブレイデッドダクロンを採用し対応できるようにもしました。
─山口さんが愛用するCaptured に関してお話し下さい。
シングルは新製品の928がお薦めですね。これはバットにボロン繊維を組込む事によりロッドの直進性やトルクを出しています。勝手にループが出来ちゃうオートマチックでスムースな振り心地で、大型魚とのファイトにも余裕の対応です。
他モデルで908や939などはティップからバットまでボロンを組み込んだモデルもあります。風が強い時は絶対にこっちを使いますが、年を取ってくると体力的にキツイ時もあったりして・・・ 風の緩い穏やかな日並みや今日は少し楽に釣りをしたいなぁという時は新製品の928に頼っています。
ツーハンドはパラ・・・、これは同じ長さで#7と#7-8というアクション+硬さ違いなんですが、比較的スペイキャストに慣れ親しんでいる方には#7がしなやかで人気があり、初心者の方には少し硬めのミディアムファーストアクションの#7-8が人気があるようですね。うちのテスター(柿沼君)なんかは#7がお気に入りみたいですけど。その辺はお好みで選んで下さい。
─山口さんとCapturedの出会いみたいなものをお聞かせ下さい。
当時コアなファンの間で注目されていたロッド、キャプチュードとの出会いは確か1989年頃で仕事として携わったのは1995年から、2002年以降は前経営者からブランドを譲り受け引き継ぐ形で独立しました。
キャプチュードについて
特にシングルハンドに関しては、スティールヘッド(川でのフローティングやシンクティップの近・中距離の釣り)やボーンフィッシュ(フラットのサイトフィッシング)をメインターゲットに想定した海外の8・9番ロッドとは1線を画し、世界でもあまり例のない、湖でのウェーディング、シンキングラインのシューティングヘッドシステムを使ったロングキャストの釣り、という日本独特の釣りスタイルから生まれたロッドです。
また、これはダブルハンド.シングルハンドに共通した事ですが、 実釣時、湖にウェーディングした時の、扱いやすいさやトラブルなくロングキャスト出来る事、バレにくさや風対策、などを念頭に製作を心がけています。
CP908BORONなど発売開始から30年近く経過するロングセラーモデルもありますが、最新のロッドマテリアルを使用するなど細かい仕様変更を重ね、フライのサイズやラインなど、現在のフィッシングスタイルにマッチする様、根本のコンセプトは変えずに常に進化を心がけています。