お名前:げんげん 様
父と息子の奇跡の一枚です。 北海道に住む父は今年で73歳になった。川歩きが心配になる年頃だ。 そんな父と、9月のシルバーウィークに道北へと向かった。 一年前、息子が成す術なくラインを切られたアイツを仕留めるべく、息を呑むほど底が見えない因縁のポイントに急いだ。 この日のために、息子はルアータックルを一新した。 父は手塩に掛けたセミフライを持って臨んだ。 山の木々も色を付け始め、朝は10度を下回り日中は20度と北の大地の秋本番。 ひんやりした空気が、よい釣りを予感させる。 ヒグマの痕跡は所々にあったが、とりわけ多くはない。 息子は深みに続く駆け上がりのおいしい釣り座を譲ってもらい、父は50mほど上流の流れ込みの小場所に狙いを定めた。 息子が、不朽の名作・メップスアグリアロングを投じた一投目のこと。 助言されたコースをイメージしながら、着底するほど充分に沈め、リトリーブを開始した。 ブレードが回転して僅かに水圧を感じた直後、ハンドルがゴツんと止まった。 ラインの先がびくとも動かなくなっていた。 ヤツが喰っていた。 ほどなくして新調したロッドが揺さぶられ始め、その後のことはあまり覚えていない。 木漏れ日に反射したラインは鋭角に水中に突き刺さり、竿先と一直線。 水ぎわから見上げたリールは単調に逆転。 ロッド全体はただ大きく弧を描いたまま。 気が付けば上流に向かったはずの父が駆け寄り見守ってくれていた。 そしてついに、昨年の雪辱を果たすと共に、父に成長を見せることができた。 『同じぐらいのサイズを父が釣って並べたらすごい画になるな』などと冗談を言えるまで数分を要したが、息子は、横たわった63cmのオスをまじまじと眺めていた。 そんな息子を尻目に、父は元に居た場所へ戻った。 何度もリペアを繰り返した往年のウィンストンで、入魂のセミフライをこの日初めて投じた。 そして流芯の脇の波に張り付きながら流れるセミフライは小さな飛沫と共に消えた。 父はじわじわと下流に引っ張られたが、73歳とは思えない軽快な脚さばきで河原を降ってきた。 遂には息子が先ほどランディングした場所まで到達。 父は針傷ひとつない60cmのオスをキャッチした。 数分前の冗談は現実の出来事となり、並べた魚をしゃがんで観察する父の姿はまるで少年のよう。 その姿を見た息子は嬉しくて仕方がなかった。 いつまでも眺めてい